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製造業DXをかたちにする、スマートファクトリー

マスカスタマイゼーションが変える製造業のビジネスモデル

現在の豊かな暮らしや高度な社会は、大量生産を可能にする工業技術の上に成り立っていると言っても過言ではありません。近代工業は、機械の力を借りた大量生産を追求することで、高度な製品の低コスト化、高品質化を実現する手段としてきました。同じ仕様の製品でも、より多く生産した方が製品1個当たりのコストは下がり、さらには生産手法の習熟度も高まります。家電製品や自動車、半導体、さらにはコンデンサなど電子部品やそれらを構成する材料まで、大量生産する技術を磨くことで、応用と市場が広がりました。

消費者が求める一点モノを効率よく作るマスカスタマイゼーションとは

ところが近年、消費者一人ひとりが求める仕様の工業製品を一点一点効率よく作り分ける、「マスカスタマイゼーション」と呼ばれる新たな生産体制が注目されています(図1)。こうした新しいものづくりの形は、スマートファクトリーだからこそ実現できるものです。

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図1 少品種大量生産、変種変量生産とマスカスタマイゼーションの違い

陶器や装飾品の中には、職人が手間と時間を掛けて作る同じ仕様の製品が二つとない「一点モノ」の製品があります。こうした一点モノには、文字通り唯一無二の価値がありますが、製作には相応のコストが掛かるため、誰もが手に入れられるわけではありません。また、人手による作業で作られるため、機械のような安定生産もできません。これに対し、マスカスタマイゼーションは、生産機械の制御技術(Operation Technology:OT)とAIやビッグデータ解析など情報技術(Information Technology:IT)の双方を活用して、一点モノの製品を低コスト、高品質で作り出すことを目指します。変種変量生産をさらに突き詰めた試みだと言えます。

マスカスタマイゼーションが起こすビジネスモデルのイノベーション

マスカスタマイゼーションが実現できれば、消費者ニーズにジャストフィットする製品を提供可能になります。

一人ひとりの好み、体型、体質、性格の違い、利用する場所や時間の違いによって、最適な製品の仕様が大きく変わる製品は、マスカスタマイゼーションの絶好の応用先だと言えます。具体的には、食品・医薬品・化粧品といった「三品産業」と呼ばれる製品、衣料品や靴、アクセサリーなど人の身に着ける製品、職人が使う工具・道具や工作機でモノを支える治具、ゴルフのクラブなどツール類がそれに当たります。

さらに、個人のニーズに合わせて製品を開発・生産することで、製造業のビジネスモデルをモノ売りからサービス提供に転化できます。消費者は、提案された商品の中から理想に近い製品を選択して購入するのではなく、理想的な製品を確実に入手できるようになります。このため、顧客満足度の高い、高付加価値ビジネスとなります。

マスカスタマイゼーション実現に向けた要素技術は揃いつつある

マスカスタマイゼーションの実現には、これまでの工業製品の開発・生産とは異なるアプローチの技術や方法論が必要になってきます。ただし、実現に欠かせない要素、「顧客ニーズのデータ化」「設計・生産条件策定の自動化」「開発した製品の効率的な作り分け」に向けた技術はほぼ集まりつつあります(図2)。

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図2 マスカスタマイゼーションの実現に向けた技術

顧客ニーズのデータ化では、過去の営業・マーケティングのデータを基に、ニーズに応える製品の仕様をAIなどで類推し策定する情報処理技術が進歩してきています。製品設計の領域では要求仕様に合った製品形状を自動設計する技術が、航空機など高い信頼性を求められる分野でも実用化されるようになりました。

 加えて、製品仕様に応じた生産条件を迅速かつ適切に策定する技術として、CPS(Cyber Physical System)を適用する試みが進められています。そして、電子的機能をソフトウェアでカスタマイズする技術や設計データを基に様々な形状のモノを自動生産できる3Dプリンタなどの進歩によって、多様な製品を効率的に作り分けられるようになりました。

マスカスタマイゼーションの先進事例が既に出てきている

今後が期待されるマスカスタマイゼーションですが、既に実践して、消費者に新たな価値を提供するビジネスを展開している企業が登場してきました。

ドイツのスポーツ用品メーカーは、消費者の足の形状データをそのまま工場に送信して、ロボットによるオートメーション製造によりわずか数時間~数日のリードタイムで、ぴったりのシューズを届けるサービスを始めました。プロスポーツ選手向けと同等のカスタムシューズを一般消費者でも入手できるようにするサービスです。足の形状をデータ化するキャプチャ技術や、ユーザの足の形に合ったソールを3Dプリンタで作る技術で実現しています。

また、アメリカの医療機器メーカーでは、一人ひとりにぴったり合うマウスピース型歯科矯正器具を販売しています。形状を少しずつ変えたマウスピースを一定期間ごとに順番に取り換えながら正常な歯列に矯正する器具です。歯形のデータを3Dスキャナで取得し、そのデータを基に必要なマウスピースを3次元CADで自動設計。設計データを加工機に入力することで、求める形状のマウスピースを自動加工します。

マスカスタマイゼーションは、製造業のビジネスモデルを、モノづくりからコトづくりへと変えていくうえで、重要なアプローチになります。大量生産の効果を追及する従来アプローチだけでは停滞しがちなビジネスを再活性化させるため、今後、様々な業界で取り組みが進むことでしょう。

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