リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴のメインイメージ

私たちの生活を変えるリチウムイオン電池

第1回 リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴

スマートフォンやノートパソコンだけでなく、自転車や自動車まで、私たちが日常的に利用しているさまざまな道具が、電気をエネルギーにして動いています。そうした道具の使い勝手を高めるには、電池の性能向上も大きな意味を持つでしょう。

そんな中、近年注目を集めているのが、リチウムイオン電池です。そこで、電池の性能向上に30年以上携わってきた東京工業大学特命教授の菅野了次氏の監修の下、リチウムイオン電池とはなにかから始まり、次世代のリチウムイオン電池と呼ばれる全固体電池の研究状況についてまで、全5回にわたって解説します。第1回は、リチウムイオン電池の特徴や電気を作る仕組み、鉛蓄電池との違いなどについてです。

監修者:菅野了次(かんのりょうじ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授(名誉教授)

1980年、大阪大学大学院理学研究科無機及び物理化学専攻課程修了。1985年、理学博士となる。神戸大学理学部助教授を経て、2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。2016年、同物質理工学院教授。2018年、同科学技術創成研究院教授、全固体電池研究ユニットリーダー。2021年、同科学技術創成研究院特命教授、全固体電池研究センター長となる。

INDEX

1. リチウムイオン電池とは?

2. リチウムイオン電池が電気を作る仕組みとは?

3. リチウムイオン電池にも種類がある?

4. 鉛蓄電池とリチウムイオン電池の違いは?

5. リチウムイオン電池はどんな分野で使われているの?

6. リチウムイオン電池の安全性は?

1. リチウムイオン電池とは?

円筒形リチウムイオン電池のイメージ画像
円筒形リチウムイオン電池
ラミネート形リチウムイオン電池のイメージ画像
ラミネート形リチウムイオン電池

リチウムイオン電池とは、私たちが日常的に使っているスマートフォンやノートパソコンなどに組み込まれている、充電式の電池です。電池の原型は、18世紀末頃に発明され、それから200年以上の年月をかけて進化しました。リチウムイオン電池は、その進化の過程で生み出された、現在最も新しいタイプの電池の一つです。

リチウムイオン電池の特徴

電池は乾電池のように1回きりしか使えない電池「一次電池」と、何度も充電して使える電池「二次電池」に分かれます。リチウムイオン電池は充電ができる二次電池で、他の種類の電池と比べて小型化や軽量化が可能なうえに、大容量の電気を蓄えることができるという特徴があります。

2. リチウムイオン電池が電気を作る仕組みとは?

電池にはリチウムイオン電池以外にもさまざまな種類のものがありますが、実は電気が作られる基本的な仕組みはどれも同じです。

電池には、金属が材料として使われたプラス電極(正極)とマイナス電極(負極)があり、その間はイオンによって電気を通す物質(電解質)で満たされています。金属の電極は電解質で溶かされてイオンと電子に分かれるのですが、この電子が負極から正極に移動することで電気の流れ(電流)が生まれ、電気が作られます。二次電池では、電池を使い始める前に充電によって電子を負極に貯めておき、電池を使う際に貯められた電子が正極に移動することで電気が作られます。

リチウムイオン電池では、正極にあらかじめリチウムを含ませた金属化合物を使用し、負極にはそのリチウムを貯めておけるカーボンを使用します。こうした構造によって、従来の電池のように電極を電解質で溶かすことなく発電するので、電池自体の劣化を抑え、より大きな電気を蓄えられるようになるだけでなく、充電や放電を繰り返す回数も増やすことができます。また、リチウムが非常に小さくて軽い物質であるため、電池自体を小型化や軽量化できるなど、さまざまなメリットを生み出すことができたのです。

リチウムイオン電池で電流が生まれる仕組みの図
リチウムイオン電池で電流が生まれる仕組み

3. リチウムイオン電池にも種類がある?

リチウムイオン電池は、正極に使用する金属の違いによって、いくつかの種類に分かれます。最初にリチウムイオン電池の正極に使用された金属は、コバルトでした。ただ、コバルトはリチウムと同じく産出量の少ないレアメタルなので、製造コストがかかります。そこで、安価で環境負荷が少ない材料として、マンガンやニッケル、鉄などが使用されるようになりました。使われている材料ごとにリチウムイオン電池の種類が分かれるので、それぞれどんな特徴があるかを見ていきましょう。

リチウムイオン電池の種類 電圧 放電可能回数 長所・短所
コバルト系リチウムイオン電池 3.7V 500~1000回
  • リチウムイオンの標準電池として広く普及
  • 高価で車載用には使われていない
マンガン系リチウムイオン電池 3.7V 300~700回
  • 安全性が高い
  • 急速充電、急速放電ができる
リン酸鉄系リチウムイオン電池 3.2V 1000~2000回
  • 安価でサイクル寿命(充放電による劣化)、
    カレンダー寿命(放置による劣化)が長い
  • 電圧が他のリチウムイオン電池より低い
3元系リチウムイオン電池 3.6V 1000~2000回
  • 電圧がそこそこ高く、サイクル寿命も長い

リチウムイオン電池の種類と特徴

コバルト系リチウムイオン電池

正極にコバルト酸リチウムを使用します。コバルト酸リチウムは比較的容易に合成でき、取り扱いが簡単であることから、リチウムイオン電池で最初に量産されました。しかし、レアメタルで高価な金属であることから、自動車部品にはほとんど採用されていません。

マンガン系リチウムイオン電池

正極にマンガン酸リチウムを使用します。コバルト系リチウムイオン電池と同じくらいの電圧を出すことができるうえに、安価で作れるというメリットがあります。欠点としては、充放電中に電解質にマンガンが溶出することがあるので電池の寿命が短くなります。

リン酸鉄系リチウムイオン電池

正極にリン酸鉄リチウムを使用します。リン酸鉄系リチウムイオン電池は内部で発熱があっても構造が崩壊しにくく、安全性が高いうえに、鉄を原料とするためマンガン系よりもさらに安く製造できるメリットがあります。ただし、他のリチウムイオン電池よりも電圧は低くなります。

3元系リチウムイオン電池

コバルトの使用量を下げるため、コバルト、ニッケル、マンガンの3種類の材料を使って作る電池です。現在では、ニッケルの割合が高いものが多くなっています。また、コバルト系やマンガン系よりも電圧はわずかに低下しますが、製造コストは下げられます。とはいえ、それぞれの材料の合成が難しいことや安定性に劣るなど、実用材料としてはまだ課題があります。

4. 鉛蓄電池とリチウムイオン電池の違いは?

リチウムイオン電池以外にも、充電ができる電池には種類があります。中でも、鉛蓄電池は100年以上前から使われている歴史のある電池ですが、リチウムイオン電池などの新しい電池が開発されている今でも、自動車用のバッテリとして使われ続けています。

鉛蓄電池とリチウムイオン電池の違い

鉛蓄電池は正極と負極の材料に鉛を使っているので、リチウムイオン電池と比べて非常に安価に製造できます。とはいえ、鉛は他の金属と比べて重いので、バッテリ自体も重くなってしまいます。また、電圧は2Vまでしか高められず、自己放電が大きいなどといった欠点もあります。

鉛蓄電池が今でも使われている理由

それでも、自動車のバッテリがリチウムイオン電池などの高性能な二次電池に置き換わらない理由としては、やはり安価であることと、ほぼ技術が確立された信頼性の高い電池であることが考えられます。自動車は、この鉛蓄電池の特性を生かし、リサイクルするシステムが確立されています。これを新しい電池で置き換えようとすると回路設計から見直すことになり、鉛蓄電池が現時点で十分に役割を果たしている今の状況なら、メーカーも余分なコストをかけたくないでしょう。

とはいえ、電気自動車やハイブリッド車などのモーターの駆動に使われる二次電池として、すでにリチウムイオン電池が採用されているので、将来的に自動車でも鉛蓄電池が使われなくなるかもしれません。

鉛蓄電池とリチウムイオン電池の比較の図
鉛蓄電池とリチウムイオン電池の比較

5. リチウムイオン電池はどんな分野で使われているの?

リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴のイメージ画像1

1990年代前半に、初めて家庭向けに商品化されたリチウムイオン電池は、ビデオカメラを小型軽量化するために採用されました。その後、当時普及が拡大していた携帯電話で次々と採用されたため、瞬く間に需要が広がっていきました。今では、リチウムイオン電池は私たちの生活シーンにおいて、スマートフォンやノートパソコンをはじめ、電気自動車や電動自転車などのさまざまな分野で採用されています。

6. リチウムイオン電池の安全性は?

リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴のイメージ画像2

そもそも、電池はエネルギーの缶詰と言えます。単位容積あたり高い密度でエネルギーが蓄えられるリチウムイオン電池は、他の種類の電池に比べて安全性に十分な配慮が必要です。また、可燃性の有機溶媒を使っている点からも、水溶液を使っている他の電池と比べて取り扱いに注意が必要です。

最も避けなければならないのは、内部短絡という現象です。内部短絡とは、外部から力が加わって電池が変形し、正極と負極が直接繋がってしまう状態のことです。そこに電流が集中すると温度が上昇し、電池自体が発火するといった大きな事故を招きます。ごく小さな不純物でも、電池内部に混入することで内部短絡が起きてしまう可能性があるため、電池内に過剰な電流が流れないように保護回路を設けるといった事故防止機能を持たせることが必要です。

他にも、電池の使用環境を60℃以下に保つために冷却装置を使用するなど、電池自体の温度をコントロールすることが重要になってきます。一定以上温度が上がった場合に、正極と負極を隔てる膜となっているセパレーターが正極と負極の間を完全にシャットアウトするなど、さまざまな方法で安全性を高める工夫が考えられています。

今回の記事で解説をしたように、従来の二次電池と比べて小型軽量かつ高性能なリチウムイオン電池は、今後も私たちの生活のさまざまなシーンで活用されていきそうです。第2回では、リチウムイオン電池が実際にどのような使われ方をしているかを解説していきます。

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